「理吏(りり)、起きなさい」
ママの声で、目が覚める。
寝ぼけ眼で起き上がって、着替えをして、階段を降りる。
「お…」
おはようと言おうとして、私の動きは止まった。
………何コレ?
ドアを開けた先には、見知らぬ世界が広がっていた。
広い原っぱ。
草花が咲き乱れ、蝶々がヒラヒラ飛んでいる。
思わずほっぺをつねってみたけど、痛い…夢じゃない?
私、ちゃんと居間の戸、開けたよね?
頭の中はパニック状態。
だって、自分の家のドアを開けたら、いきなりコレだよ?
普通驚くって。
有り得ないってば。
「パパ!ママ!」
呼んでみる。
返事は無い。
後ろを振り向くと、入って来たハズのドアがなくなっている。
一体どうなってるの?
そればかりを考えながら、その場に立ち尽くす。

…どれ位の時間が経っただろう?
一人の少年が、私の元へ駆けて来た。
思わずちょっと、後ろに下がる。
「すみませんっ!!」
その少年は、私の前に来ると、いきなり頭を下げて謝ってきた。
「あ…あの…?」
私は未だにパニック状態。
「僕、エルって言います。次元の扉、繋ぎ間違えちゃって…」
エルと名乗った少年は、申し訳なさそうにそう言った。
よくはわからないけど、私はこの少年のせいでココにいるらしい?
文句を言ってやろうと思ったけど、あまりに申し訳なさそうな顔をしている少年を見ると、怒るに怒れない。
「…帰れるの?」
私はそれだけ、聞いてみた。
「はい。勿論です。本とにごめんなさい」
少年は言った。
「それならいいのよ」
私は言った。
本当は、ここは何処なのかとか、少年が何者なのかとか、聞きたかったのだけれど。
「良かったぁ〜」
少年は、心底ほっとしたように胸をなでおろすと、私に言った。
「お詫びに少し、遊んで行かれますか?」
うーん…家には早く、帰った方が良いんだろうけど…。
ちょっと考えたけど、私は「うん」と答えた。

話すお花達、歌う木々、柔らかい風。
普段の生活の中では考えられないような、メルヘンで素敵な世界。
思いっ切り走って、疲れたら休んで、エルと笑い合って。
ずっとここにいたい。
私はそう思ったけど、考え直す。
「楽しかったけど、そろそろ帰るね」
そういうとエルは、優しい笑顔を見せて、こう言った。
「楽しめましたか?良かった。じゃあ扉を繋げますね」
エルが手をかざすと、扉が現れた。
「ここを開ければ、元いた場所に戻れます」
私は扉を開ける。
ちょっと名残り惜しいなと、思いながらも。
出ようとした寸前、エルが言った。
「もしまたココに来たくなったら、僕の名を呼んで下さい。また、会えますから」
「うん」
私はにっこり笑うと、扉をくぐった。

足を出すと、そこは見慣れた我が家の居間だった。
「おはよう」
パパとママが、私に言う。
「おはよう」
私もそう答えると、ママのおいしい料理が並ぶ、食卓についた。