「久也(ひさや)っ」
誰かに呼ばれた気がして、俺は振り向いた。
今いる場所が、何処(交差点のど真ん中)だという事も考えずに。
ドンッ
一瞬、何がおきたのか理解出来なかった。
身体が宙に浮く。
急激な痛みが襲い、俺は意識を失った。
クスクスっ
誰かの笑い声が聞こえた気がした。

───目を開ける。
俺を見下ろす女が見えた。
「久也、あなたもこれで、私と同じだね」
その女が言った。
「留美(るみ)…」
俺は思わず、その名を呼んだ。
1年前、俺が殺した筈の女。
好きだといつも、まとわりついていた。
目障りで、うっとうしくて俺が殺した女。
「お前…何で…?」
留美が笑う。
「何言ってるの? 久也。 あなた、死んだのよ」
留美は笑い続ける。
俺が───死んだ?
「何言ってんだよ? 俺は…」
───そう言って、思い出した。
俺は、車に跳ねられて…。
「好きよ久也。 これからは、また一緒にいられるね」
留美がいっそう微笑んだ。

交差点で俺を呼び止め、俺を殺した女。
もう2度と、会う事もないだろうと思っていたのに…。