貴様等に、何がわかる?
俺を見る奴等の目には、同情の色。
俺は、一度に妻と娘を失った。
仕事から帰ると、俺の家のあった場所に、黒いカタマリがあった。
…家は、焼けた後だった。
放火されたのだ。
───俺は、拳を握りしめた。
無能な警察の連中に、一体何が出来る?
俺の愛する妻を、娘を殺した奴を、必ず捜し出して、コロス───。
家族も、住む家も無くした。
俺にはもう、無くして困るものはないんだ。

───犯人は現場に戻る。
勿論そんなもの、信じてるわけじゃないが…。
俺は焼け跡だけが残る、かつて家があった場所に行った。
そこには、誰もいなかった。
手掛かりも何も無い。
何かないのか?
何か───。
その時、俺の目にあるものが映った。
それは、俺のジッポだった。
焼け残ったのか?
一瞬そう思ったが…違う!
あのジッポは、いつも俺が持ち歩いているものだ。

───俺、なのか?
あの日、俺は何をしてた?
確か、会社にいたハズだ。
会社に電話をかける。
───…あの日、俺は会社にはいなかったらしい。
一体俺は、どうしたんだ?
俺が、妻と娘を殺したのか?
夢なら、早く覚めてくれ…。

───「この患者さん、ずっと何かぶつぶつ言ってるのよ」
「奥さんの浮気現場に居合わせて、家に火をつけたんですってね」
看護婦逹が話している。
男は、病室と言うより牢獄に近い部屋の中で、覚める事の無い悪夢を見続けていた…。