「あの…私を遠くに、捨てて頂けませんか?」
道を歩く僕を呼び止めたのは、大きなダンボール箱を持った女の人だった。
「はい?」
その言葉に、思わず僕はそう聞き返してしまっていた。
女の人の顔は、真剣そのものだ。
僕は考えた。
頭の中に、選択肢が浮かびあがる。

この女性の願いを、聞き入れますか?
A はい。
B いいえ。
C とにかく話を聞いてみる。

僕は、少しだけ話を聞いてみる事にした。
「どうして、捨ててほしいなんて言うんですか?」
女の人から返って来たのは、また変な答えだった。
「私、疫病神なんです」
やっぱり彼女の顔は、真剣そのものだ。

彼女の話を信じますか?
A はい。
B いいえ。
C もう少し話を聞いてみる。

頭の中には、また選択肢が浮かびあがる。
「まさか…疫病神なんて、本当にいるわけがないじゃないですか」
僕が言う。
選んだのは、Bの答えだ。
「やっぱり、信じてもらえないですよね」
彼女は、少し寂しげな表情をしたかと思うと、続けて言った。
「捨てて、もらえませんか?」

女を捨てますか?
A はい
B いいえ
C ………

僕の選択肢は、C。
「僕と一緒に暮らしませんか?」
僕は言った。
彼女は驚いた表情をする。
「実は僕も、疫病神なんですよ」
僕は秘密を、彼女に打ち明けた。
「まさか…」
彼女が言う。
「僕はずっと、他人とはなるべく接しないように生きてきました。でも、貴女となら、上手くやっていけそうな気がするんです」
彼女は、少し考えて、頷いた。
「これ以上不幸には、なりようがないですものね」
そうしてここに、世にも奇妙な疫病神のカップルが、誕生した。