四角い、狭い部屋の中。
隅っこで、ただ蹲って。
いいの。
私はずっと、此処にいるの。

コンコン
ドアをノックして入って来たのは、優しい瞳(め)をしたお兄さん。
部屋の隅っこに、蹲って座り込んでた私の手を、そぉっと掴んで、立ち上がらせた。
「大丈夫?」
「大丈夫だよ」
笑って見せる私を、心配そうに覗き込む。
どうしてそんな顔するの?
だって私、ちゃんと笑えてるでしょう?
「無理して笑わなくても、いいんだよ」
そう言ったお兄さん、私を優しく抱きしめる。
優しく優しく、包み込まれて、安心と同時に、今まで溜め込んでいたモノが、涙となって流れ出した。
「あのね、本とはずっと、泣きたかったの」
お兄さんの胸の中、私はずっと、泣き続ける。

「行こうか」
私の涙がようやくおさまった頃、お兄さんはそう言って、私の手を取った。
「うん」
私は頷いて、顔を上げた。
ゆっくりと、ドアを開ける。
明るい日差しが、少し眩しかったけど、お兄さんの手は暖かくて、私は一歩、部屋から足を出した。
うん。
大丈夫、怖くないや。
お兄さんの顔を見て、今度は本当の笑顔を見せる。
お兄さんも、優しく笑って、私を見る。

私達が出た後、今まであったその部屋は、音を立てて崩れていった。
これからは、外の世界で、生きてゆくの。