トゥルルル♪
電話の音で、目を覚ます。
寝ぼけ眼で階段を降りて、私は受話器を耳に当てた。
「…もしもし」
「おはよう」
電話は、私の彼、拓人(たくと)から。
何だか声が暗い気がするのは、気のせい?
少しの、沈黙があった。
「どうしたの?」
沈黙に耐え切れずに、私が言う。
「………」
「…拓人?」
「別れよう…」
沈黙を破り、小さな声で拓人が言った。
「え?」
ドッキリ?とかじゃないよね?
「…今、何て言ったの?」
恐る恐る、私は聞く。
「未亜(みあ)、俺と、別れてほしい」
今度はハッキリと、拓人が言った。
一瞬、目の前が暗くなる。
「…どうして?」
かろうじて聞けたのは、それだけ。
でも拓人はその言葉には答えずに、
「ごめん…」
とだけ言うと、電話を切った。
ツー…ツー…
受話器からは、もうその音しか、響いては来なかった。
頭の中に出てくるのは、疑問符ばかり。
何が起きたのか、わからない。
昨日まで、あんなに仲が良かったのに。
好き合ってると、思ってたのに。
昨日も好きって、言ってくれたばかりだったのに。
どうして?どうして?どうして?
理由なんて、全くわからない。
大粒の涙が、瞳から溢れ出る。
ショックで、声も出せない。
「別れて欲しい」
拓人の言葉が、頭に流れて…
私の意識は、その場で途切れた。

「…あっ…未亜!」
私はその声で、意識を戻した。
目を開けると、そこには心配そうな、拓人の顔。
「…どうして?」
私は、喉からなんとか声を引き出す。
「未亜?大丈夫か?」
拓人が言う。
頭は、混乱するばかり。
その様子を見て、拓人の顔が更に心配顔になる。
「…未亜、お前、寝ぼけて階段から落ちたんだぞ?」
拓人の口から出たのは、その言葉だった。
「…え?」
じゃあさっきのは…?
「何度も電話鳴らしてんのにさ、出ないから心配で来ちゃったよ」
拓人が言う。
「お前ドジだからな…また階段から落ちでもしたんじゃないかと来てみたら…」
「…私達、まだ付き合ってる?」
私は聞く。
「…いつ別れたんだよ?」
今度は拓人が困惑顔。
なんだ…夢だったのか…。
「ううん。何でもないの」
私はようやく笑顔を取り戻し、拓人に抱きついた。
安心と同時に、アレが現実にならない事を、祈りながら…。
「大好きだよ!」