「あなたは今、幸せですか?」
街を歩いていると、知らないお兄さんに話し掛けられた。
ニコニコと、笑いながら訊いたお兄さんの手には、アンケート用紙と思われる、白い紙。
「幸せって、何?」
私は答える。
答えにはなっていない事を、知りながら。
お兄さん、ちょっと困った顔をして、こう言った。
「自然に笑える事、かな?」
「じゃあ私、幸せじゃないです」
私は答える。
街には笑顔がいっぱいで、みんな笑っているけれど、自然な笑顔なんて、何処にも見当たらない。
「そうか、僕と一緒だね」
苦笑しながら、お兄さんが言った。
「この街に、幸せな人なんて、いるのかな?」
今度は私が、お兄さんに訊く。
「どうかな?」
首を傾げる、お兄さん。
「アンケートでは、幸せだって答えた人は、一人もいないんだ」
お兄さん、寂しそうに笑いながら、続けて言った。
「そう…でもみんな、笑ってるんだね」
私はそう言うと、じゃあねと手を振って、また歩き出した。
嘘の笑いを、浮かべながら。
街には、嘘の笑顔がいっぱい。
笑っているけど、本とはみんな、泣いているの。